第19回図書館総合展 フォーラム
デジタルアーカイブで図書館は変わる
~東京都瑞穂町の実践から垣間見る知の拠点としての図書館~
記録
日時:平成29年11月8日(水)13:00~14:30
場所:パシフィコ横浜アネックスホール 第2会場
主催:株式会社図書館流通センター、TRC-ADEAC株式会社
パネリスト:宮坂勝利(東京都瑞穂町図書館館長兼郷土資料館管理者)
:井上透 (岐阜女子大学 デジタルアーカイブ研究所所長・教授)
:原田隆史(同志社大学大学院 総合政策科学研究科教授)
司会:田山健二(TRC-ADEAC株式会社 代表取締役社長)
下記記録のPDFファイルは
こちら(PDFファイル)をご覧ください。
フォーラム概要(田山)
報告1 報告者:東京都瑞穂町図書館長兼郷土資料館管理者 宮坂勝利
- 【瑞穂町の概要】 →レジュメ2ページから6ページ
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・ 防衛省への出向経験がある図書館長が、図書館・郷土資料館けやき館・社会教育施設耕心館の
3館を管理している。
・ 人口3万3千~3万4千人程度を推移。消滅都市の可能性は低い。
・ 町の東側に狭山丘陵の自然、南側に米軍横田基地を有する。
・ 図書館は昭和48年防衛省の補助金を利用して建設。補助金を維持するため、
60年間は建物の補修・移動等に制約がある。
・ 郷土資料館は平成26年11月開館。平成29年9月1日に来館者10万人を突破。年間来館者は3万4千人超え。
- 【瑞穂町の地域資料デジタル化のキーワード】
1.位置的不利の解消 →レジュメ8ページ
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・ もともとは1階・2階が図書館、3階に郷土資料館があり、図書資料・郷土資料の共有・来館者の誘導が
可能だった。
・ エレベーターなし、老朽化、収蔵庫不足により、防衛省の補助金を利用して資料館部分を新築移転。
資料の共有が難しくなったため、ADEACを利用したデジタルアーカイブ化および配信を
平成27年に開始。
・ 他自治体との差別化をはかるためデジタル化と同時に英訳を開始、方言のローマ字表記等の工夫も加えて
公開している。横田基地兵士には2年間の駐留中、地元地域・東京のことを調べる「Japan Tour」という
ルールがある。基地広報部にも情報を提供し、そこに英訳コンテンツを利用してもらっている。
- 2.見せ方の工夫 →レジュメ9ページから10ページ
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・ デジタルアーカイブを見てもらい、楽しんでもらい、活用してもらってこそ地域の魅力が発信出来る。
・ 平成28年度、郷土資料館玄関ホール床面の10m四方の航空写真地図とNECの被写体認証サービス
(形を認証することによりデータにリンクする。)を使用して、専用タブレットを航空写真に
かざすことで該当箇所に関するデジタルアーカイブのデータに接続、そこからさらに刊行物等の詳細な
情報にリンク出来る、地図上での町歩きシステムを共同開発した。
例:箱根ヶ崎駅
地図上の箱根ヶ崎駅にタブレットをかざすと、駅の形を認証して、デジタルアーカイブ内の駅の
古い画像等が表示される。さらにキーワード検索を行うことで、詳細な刊行資料へもリンクできる。
箱根ヶ崎駅の場合は、提供された昭和45年最後のSLの音声データが追加された。
(地図上に埋め込む場合、QRコードでは画像が潰れる、ICタグは機材を近づけないと反応しない等の
問題がある。)
・ 平成29年度、郷土資料館内で使用していた被写体認証サービスを、町中のモニュメントや文化財等に
拡張、実際の町歩きに導入するシステムを開発中。年度末には公開を予定。
- 3.キラーコンテンツの発掘 →レジュメ11ページから12ページ
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・ 図書館の資料のうち、他の図書館との差別化を図れるのは「地域資料」のみ。
・ 瑞穂町のキラーコンテンツを資料館と連携して重点的に集める方針を立てた。
○狭山丘陵の自然に関する資料群
映像・画像収集、剥製の作成・保存等
○瑞穂町在住だったミュージシャン大瀧詠一氏の資料群
追悼展示開催をきっかけにレコード会社等と協議しながら資料収集を開始。
月に一度、ファンが集まって開催される「大瀧詠一さんを語る会」と連携し、
そこをきっかけにさらに資料が集まる。
○横田基地に関する資料群
戦前の陸軍多摩飛行場が、戦後・米軍横田基地になった。
郷土資料館開館の際、横田基地資料部が保管していた資料の提供を受けた。
瑞穂町内の基地関係部署の繋がり、防衛省出向時の繋がり、「よき隣人」としての基地との
交流にもよる。
横田基地をきっかけとする米国モーガンヒル市との姉妹都市交流も始まった。
- 4.ふるさと学習みずほ学 →レジュメ13ページから14ページ
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・ 平成29年度開始。教育委員会中心の事業。
「地域を知り 地域と関わり 地域で学び 地域でできることをする学び」
・ ほぼすべての教科において、地域のことを織り混ぜながら学ぶ。
社会:日本の歴史と瑞穂の歴史を比較したり、収蔵品を授業に活用。
国語:例「ごんぎつね」学習→資料館収蔵の火縄銃を学校に貸し出す。
図工:瑞穂町に特化した工作物や風景画を制作する。
音楽:校歌、町歌の歌詞を分析、地元に関する言葉を捜す。
体育:地域資料をもとに山歩きを行う。
「瑞穂音頭」を皆で踊り、瑞穂町をモチーフにした踊りについて考える。
理科:資料館学芸員が、校庭の植物、狭山丘陵の木々、動物について専門的に講義等。
他 :地元の農芸高校と小学校の交流
畜産科交流では小学生が牛を見る・絵を描くだけから、牛に実際に触り、生態を調べる方向に
変更し、園芸科交流では畑の収穫体験等を実施。
川の支流を知る
子供たちの足で支流の探検隊を行い、水源である狭山丘陵の特徴を知る。
縄文時代の学習
地元出土の縄文土器を直接触らせる。火起こし体験をする。
伝統工芸の学習
町の特産品、だるまや村山大島紬の製造過程を学び、実際に見学する。
教職員への周知、勉強会
学校の先生をともなっての町歩き、各講義の事前学習 等。
・ 出張授業等で学校に図書館・資料館が入り込む。
1学期の場合、打合せ30日間、ゲストスピーカー等としての授業19日間。
・ 学校への出張授業をきっかけに、子供たちの図書館・郷土資料館の利用が格段に増えた。
出張授業の内容をさらに知りたい。
→ 図鑑・資料、デジタル化されていない資料などを借覧、集客数・貸出数が増える。
→ 自主的な「調べる学習」に繋がる。
→ 「調べる学習コンクール」の開催の計画へと発展。
- 5.知の拠点としての図書館・資料館 →レジュメ15ページ
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○地域資料の重要性を再認識
・ 地域資料はその地域特有の、唯一無二のもの。
それらの資料を確立することにより、図書館・資料館の醍醐味がでる。
・ 残念なことに、東京都市町村職員研修所における勤務期間2年未満図書館職員研修では、
地域資料カリキュラムが削られることが研修所側の提案で決定した。
○デジタル化して終わりではない
・ 地域のオリジナルコンテンツを是非見てもらいたい。
そしてデジタル化した資料を見てもらうことにより、現物を見に町に来て欲しい。
デジタル化を基本に、次に進めることが出来れば「知の拠点」としての役割が果たせる。
○図書館と資料館はもとより、すべてと繋がる
・ 各職員に地元との色々な繋がりがあるはず。皆がその繋がりを意識して情報収集にあたれば、
それぞれの繋がりが結びつき、資料や人材の情報・アイディアが広がっていく。
今、何が起こっているかをいち早く察するのが、これからの図書館員の使命ではないか。
○企画課でもない、観光課でもない、図書館だから仕掛けることができる地域活性化
・ 新しい目線・確かな情報が地域資料の中にはあり、郷土資料館が関わっていれば史実に基づいた
確定情報が入っており、そこには豊富なバックデータがある。
そこにキラーコンテンツを絡めていけば、さまざまなことが出来る。
・ 土曜・日曜開館していることが、図書館の最大の強み。土日の問い合わせは図書館に来る。
その問い合わせに情報を追加して対応することが出来れば、
来館者の瑞穂町に対するイメージアップにも繋がる。
図書館と郷土資料館は繋がっているので、資料館への誘導・集客にも繋げることが出来る。
・ デジタルは画面の中だけではなく、そこを起点にして様々なことに転用が可能。
・ 集客を目的とする観光担当と、史実を重視する文化財担当の間に図書館が入ることにより、
物事が進む場合もある。
・ 図書館は固定客を持っている。本を借りる以外にも、その人たちを引き込み、地域に関する部分を
盛り上げることが出来れば、地域資料のデジタルアーカイブ化は非常に有効な手段となる。
デジタルアーカイブを地域活性化の究極のサービス部隊とすることが、これからの図書館の
生き延びる道ではないかと思う。
- 【今後の予定】 →レジュメ16ページ
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・ 三年連続で図書館振興財団の助成を利用して資料のデジタル化を進めてきた。
町歩きの次は、米軍輸送機からの画像等を地域資料と絡めて公開できれば面白いと考え、
現在米軍と話を進めている。その他に、「夜の図書館」「川の中」「ドローンで源流を見る」など、
アイディアはいくらでもある。
・ 一人でも多くの人に利用されたい図書館と、資料を保存したい郷土資料館が、
わけ隔てなく様々なことを行えば、可能性は無限大になり、地域オリジナルのアーカイブが
生まれるのではないかと考えている。
報告2 報告者:岐阜女子大学 デジタルアーカイブ研究所所長・教授 井上透
- 1.強烈な少子高齢化が進展 →レジュメ2ページ
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・ 日本創成会議 平成25年3月レポートにおける消滅市町村数の衝撃
東京都豊島区、神奈川県横須賀市など、ドーナツ現象の外側・中核部分にも人口流出による消滅都市の
可能性が増えてきている。
・ 内閣府・総務省がコンパクトシティー化を推進
地方創生では自治体においても生産性向上が求められている。
自治体の対応として、文教施設である小中学校統合・中高統合、図書館・公民館・博物館等
社会教育施設の機能統合の動きが強まっている。
学校と社会教育の統合化も進むかもしれない。現在はそういう可能性の高い時代。
図書館も従来の図書館機能だけでは済まない。年間100回以上の事業を図書館が行っている瑞穂町は、
アクティブに未来に対して取り組んでいる例といえる。
- 2.地方創生による生産性向上は地域の特質を知り、活用すること →レジュメ3ページ
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・ 図書館・博物館の果たす役割
図書館は地域の歴史・文化を記録し、活用する。過去の歴史写真、歴史証言・オーラルヒストリー、
文書、地図、現在の祭礼をアーカイブ化して、ネットを通じて当該市町村では
誰もが共有できるようにして活用を図ることが必要になってきている。
・ 図書館・博物館はアーカイブ
「図書館・博物館は情報産業」(梅棹忠夫)
広く情報を収集して、収集した情報を地域の人たちに使ってもらう、ナレッジマネジメントの場として
図書館・博物館を使うのが本質的ではないか。
- 3.どこで役に立つか →レジュメ4ページ
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・ 平成11年 教育基本法改訂。学校教育で行う郷土学習・伝統文化教育に、
郷土資料を使用するようになった。
・ 過去の自然災害資料を防災の教材として活用する。ADEACにも地震に関する史料が
多く掲載されている。
・ 鯖江市を中心にオープンデータ自治体が増えている。これは様々なコンテンツを使い、
企業活動にも利用可能なデータを提供するものでなければならない。
・ 認知症対策の「回想法」の教材として、古い写真を使う。全国の博物館で昭和初期のコンテンツを
老人ホーム・介護施設へ貸し出している。現物に触り、過去の話をすることで覚醒する・
認知症の進行が止まる。大規模な高齢化社会に向かっている日本に必要なコンテンツが、
図書館には集められるのではないか。
・ 地域を知ることでアイデンティティー・郷土愛を醸成するために、地域資料が重要になる。
・ 地域産業のヒントを市民に提供できる。
- 4.図書館の「知の拠点」として活動は、政策決定のための「知識基盤」 →レジュメ5ページ
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・ 地域の情報がアーカイブ化・活用されることは、地域の政策の質を高めることになる。
瑞穂町でも様々な事業に取り組むにあたり、図書館・資料館が集めたデータがヒント・
知識基盤となり、地域の活性化が行われている。それは政策決定のためのヒントが
発掘できるということ。
議員・行政担当者の理解・共感を生むことが出来て、はじめて図書館の活動は持続可能になる。
- 5.デジタルアーカイブ立国への動向 →レジュメ6ページ~8ページ
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・ 国全体でアーカイブ化および活用への動きが強まっている。
『我が国におけるデジタルアーカイブ推進の方向性 2017年4月』
『知的財産推進計画2017』(平成29年5月)(内閣府知的財産戦略本部)
『経済財政運営と改革の基本方針2017~人材への投資を通じた生産性向上、及び未来投資戦略の実現に
向けた改革』(平成29年6月9日閣議決定)
・ 民間・研究機関・産業界の動き
○デジタルアーカイブ研究機関連絡会(2016年6月)
東京大学に事務局を置き活動開始
○デジタルアーカイブコンソーシアム(2017年4月設立)
デジタルアーカイブ振興基本法設立に対する産業界による応援団体
○デジタルアーカイブ学会(2017年5月設立)
法制度部会、人材養成部会、技術部会、コミュニティーアーカイブ部会等。
2017年7月22日 第1回研究大会を開催、第2回研究大会は2018年3月開催
○デジタルアーカイブサミット2017(2017年9月)
国会のデジタルアーカイブジャパン推進議員連盟と連携
○産学官フォーラム(2017年11月14日)
内閣府知的財産推進本部主催
・ 閣議決定内での表現(文化・芸術内でのデジタルアーカイブの位置づけ)
「国立文化施設の機能強化、文化財公開・活用に係るセンター機能の整備等による文化財の保存・活用・
継承、デジタルアーカイブの構築を図る。」(『経済財政運営と改革の基本方針2017』)
「我が国の知的資源・文化芸術資源を一元化し新規ビジネス・サービスを創出するため、各分野での
デジタルアーカイブ化や、国立国会図書館を中心とした分野横断の総合ポータル構築を推進する。」
(『未来投資戦略2017』)
- 6.デジタルアーカイブ化には準備が必要 →レジュメ9ページ
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・ デジタルアーカイブ化は図書館周辺で広がりつつある。瑞穂町図書館宮坂館長の実施例は、図書館・
博物館・文化施設が目指すべき役割の未来像を先取りしている。
・ 「デジタルアーカイブ振興基本法」成立が今後予想される。これからの図書館がどういう方向に
変化するのか、その中でステークホルダーを掴み、地域で使える図書館となるには
デジタルアーカイブ化のことを考えていただきたい。
そしてデジタルアーカイブ作成には、デジタルアーキビスト養成講座、資格認定等の機会を設け、
他と連携することにより人材養成を行うことが必要となってくる。
図書館には、デジタル化に対応できる図書館司書の育成など、時代におくれないためのアンテナを
持っていただきたい。
報告3 報告者:同志社大学大学院 総合政策科学研究科教授 原田隆史
- 概要
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・ 綺麗な画像・リッチなコンテンツ・大量のデータは、デジタル化の絶対的条件ではない。まずは
デジタル化を実施し、データを公開して、使用してもらうことが重要
・ 使用してもらうため、オープンデータの提供が、図書館を初めとする各種機関に求められている。
作成側が、自分たちに出来る許認可権限上で最大限まで自由に使ってもらえるかが、利用者側が
利用するに際しての大きな要因となる。
・ 各機関により提供されるデータは、標準化のなされた状態であることが望ましい。
現在注目されているデータ標準化の手法として、IIIF(トリプルアイエフ)がある。
・ 使用許可に関しては、データに使用許可内容を示すクリエイティブ・コモンズ・ライセンスのマークを
付与する方法がある。
・ インターネット経由で別サーバー上に公開されたプログラムを呼び出し、結果を受け取ることが
できるWeb APIというシステムもある。
・ IIIF、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス、Web APIを実現出来れば、デジタル・アーカイブ、
デジタルデータの公開に協力しているといえる。
・ データ公開の事例
各自治体の条例はWeb上に公開されているが、GOOGLE等の検索にかかりにくいため、研究者からの
依頼で「条例Webアーカイブデータベース」を作成して公開したところ、ISO9001、ISO14001取得、
支社出店等、企業による利用が多く含まれていた。
まずはデータを作成して公開することで、想定外の利用者からの提案や、想定された利用者からの
掘り下げた提案が集まり、広がりが出来ていく。
・ 図書館の利用者のうち登録者は30%から40%、さらにその半分から80%が実際の利用者と
いわれている。
図書館が存在価値をアピールしようとした場合、その壁をどれだけ越えられるかが大きなハードルに
なっている。そのための新たな手法として、データ公開はとても費用対効果が高い。さらに標準化して
公開をすることで、他との繋がりが出来、評価が高まる。
・ 宮坂館長の事例は成功例である。そこまでの実現が難しくとも、自分たちに出来そうなものを取り上げ、
積み上げ、公開していくことに意義がある。
パネルディスカッション
原田)デジタル化について、いかに役所内で了解を取ったか?
宮坂)税金を使う以上、皆に等しく利益がわたるようにしなければならないが、瑞穂町の場合は様々な補助金を財源とした。また町の為になるという点をアピールした。
原田)それは瑞穂町の特殊事情ではないか?補助金というのは、どこでも共通か?
宮坂)補助金は色々なところにある。防衛省の補助金もハードだけではなく、ソフトに対する補助金もある。文部科学省、東京都生活文化局や、資料館向けには文化庁がある。図書館振興財団のような新しい方式もある。日々アンテナを高くして探すと、民間補助も含めて見つかるのでそこを狙うといい。補助金があれば、財政当局はノーとは言わないだろう。
原田)日本全体はデジタルアーカイブ立国に向かっているか?
井上)厳しい状況。地方での講座などでは、デジタルアーカイブという言葉をご存知ではない。それをいかに定着させるかという段階ではないかと思う。難しく考えてしまいがちだが、瑞穂町のしていることはとてもわかりやすい。駅の写真があり、音がしてくる。そういうものを作らなくてはいけない。映像を集めるにも、あまり手をかけずに権利処理をして使えるコンテンツを集めていらっしゃる。
そういうことをそれぞれの図書館の方たちが、法的な知識も含めて技能として知っておかなくてはいけない。そうしないと法律が出来ても、広がることは難しいと思う。
原田)瑞穂町の場合は、職員と知識をどう共有したか?
宮坂)自分は図書館のほかに郷土資料館も管轄しており、文化財の担当職員もいる。職員も3年ほどでローテーションするので、いろいろな部署にいた人間がいる。きっかけさえもらえば、その時々の収蔵データを思い出すことも出来る。郷土資料館の収蔵データであれば、権利関係はクリアされているので、そういうものを中心に公開している。
井上)国立科学博物館で博物館の全国調査をしたが、SNSを上手に利用したところは成功している場合が多い。特に水族館や動物園は、子供たちとの会話や双方向性の会話のなかで入館者数をかせいでいる。その時にインフルエンサー(地域の中で影響力を持つオピニオンリーダー)にネット上でそこのアーカイブを推薦してもらうこと、発信してくれる人を捕まえることが重要になってくる。
瑞穂町ではサポーターをいかに捕まえて、どういう広報をしたのか。
宮坂)瑞穂町はSNSは強くない。春に瑞穂の吊るし飾りという催しがあり、二、三週間で一万人以上の方が資料館等に来館する。ほとんどが高齢者で、写真を撮っていてもネット上には見当たらない。口コミ状態で広がっている。これにSNSの力が入ってきたら、破壊力は抜群だと思う。
また「大瀧詠一さんを語る会」は全国組織なので、この方々が瑞穂町について発信してくれる。するとそれを見た人が集まってきてくれる。そういう人たちは図書館の貸出し利用は出来ないが、図書館・郷土資料館の賑わいには力を持っていると思っている。
井上)重要な部分を掴んでいらっしゃると思う。
国立科学博物館に「魚類写真データベース」がある。それはダイバーの雑誌で募集をして、公開を条件にして無償でデータを集めた市民参加型の写真データベースで、600人ほどのダイバーに協力してもらって10万件ほどの情報が集まり、月あたり10万件のアクセスがある。
「市民参加型」というのが図書館が地域アーカイブを作成する場合の鍵になるのではないか。
宮坂)講座や「囲炉裏で語る昔話」イベントがある。終了後には座談会のような状況になり、そこで人伝に情報が集まってくる。そこで話題になったものについて職員が実物を見せてもらい、場合により提供依頼を行うことで、町のデータベースの裾野がどんどん広がっている。
原田)これから10年たつと、デジタル環境を使いこなす人の比率が高くなる。そうなると差別化がはかられ、SNSの寿命が短くなってくることが考えられる。現在もフェイスブック、ツイッターの情報の寿命は数時間もしくは数十分なので、それに対応して情報を上げ続けることがつらくはならないか。
井上)SNS疲れの学芸員は大勢いる。またレスポンスする際のリテラシーが問題になってきている。
原田)イベントの際、自分たちが発信するのには限界があるので、仲間を巻き込むという方法があると聞いている。
瑞穂町ではイベントを多数行っているのはすごいと思うが、百数回というのは続けられるものなのか?
宮坂)昨年の郷土資料館の事業数はホールでの歴史講演会が月一・二回、「囲炉裏で語る昔話」は毎週のようにあり、ほかにもお茶の講座、餅つきなど色々行っているが、地域の高齢者が楽しみに参加してくれている。また、だるまや村山大島紬などの地域の伝統産業を保存したいという思いを持っている方が大勢集まっている。
昨日も小学校の社会科見学があったが、村山大島紬伝承会の方々が子供に機織体験をさせてくれた。その動画・写真撮影をさせてもらい、それを次のふるさと学習に生かそうと考えている。
次へと繋げる作戦、連続性のあるものを途切れず続けていこうというのが、現在の図書館と郷土資料館の合言葉になっている。
原田)続けていくと、一回ごとの労力は減っていくか?
宮坂)その通り。オープン当初は何かをやらねばならないと七転八倒したが、行事をローテーションでまわせるようになると、毎年その時期に前年の経験に調べたことを上乗せしたことが出来るようになる。調べの幅も広がり、座学にとどまらず、実施へと広がっていく。発想が新しくなっていく。そうして元気な方が増えれば、町の医療費も抑制できる、と公の立場としてはいいこと尽くめになる。
井上)参加型により実際のコンテンツが膨らんでいくという、博物館でも理想形としている形。これまでの「友の会」などのバックアップ組織は利益享受型だったが、参加する形が今からの図書館には求められているのではないかと感じる。
原田)参加型のサービスは各県立・市立図書館でも行っているが、連続して行える環境と、人の手配が大変。最初の立ち上げが大変だと思ってしまうが、そのあたりが上手くいっているというのが面白い。その時、最初にデジタル化の資料があるというのは強みだと思うが、資料の選び方はどう行ったのか。自分は、最初は何でもいいから作ればいい、と言ったのだが。
宮坂)そうです。瑞穂町のデジタル化は、図書館と郷土資料館が分離して、紙ベースのデータが共有できなくなるという点からスタートした。そしてデジタル化することにより後世に残せることに皆が気づいた。
また画像データであれば、皆が自宅でも懐かしく楽しめる。自宅でデータを見た人が、郷土資料館に来て航空地図の上でタブレットをかざし、昔の写真を見ながら話を始める。その話を「囲炉裏」の会でしてもらった方も何人かいる。その体験が次の学習に連動し、次へ次へと繋がっていく。
きっかけは、自宅に紙がなくてもインターネットで見られるデジタルから始まる。
簡単でいいから一歩手を出せば、それに引っかかる人はいるので、そこから波及していく。
井上)国立科学博物館の日本館内の展示をリニューアルする際、古い展示のデジタルコンテンツを作成したが、その後のリンクやSNS・ブログでの拡散には繋がらなかった。自分たちが思い込みで作るアーカイブには危険性があることを、深く反省した。
瑞穂町では評価・ニーズの汲み取りも含めて、どのように開発を進めているのか。
宮坂)図書館と郷土資料館は性質が違う。図書館はデータをどんどん公開し、郷土資料館は物を未来へ繋げていく。しかし税金を使っている以上、評価は何人来館者が来るか、何冊本が借りられるか、どれだけの客が満足するかという点にかかってくる。
図書館ではレファレンス対応件数などもあるが、郷土資料館も問い合わせに関する件数・回答の記録を残し、毎月報告している。年間800件程度の質問や意見が集まるが、これらの回答を毎月検証し、回答の精度を上げるよう努力している。
原田)作ったことで満足してしまってはうまくいかない。『Library & Information Science Recearch』という学会誌に昨年掲載された記事に、博物館が作成したデジタルミュージアムに関して検証したところ、ほとんどが失敗だったとされている。作成側が便利であろうと、凝った仕組みで作成したものを公開しただけで終わってしまった、という失敗例がある。
これらは宮坂館長の話にあった、いかに巻き込むかということや、最初に作ったもので満足せず、新たなコンテンツを提供して動いていくという行為の逆にあるといえる。
今出た例は特殊ではないと、三人全員が言っている。
是非皆様方も、自分たちの持っている中でまず得意なものから始め、各地で作った小さいアーカイブが繋がっていくような、日本中を通してデジタルライブラリー・デジタルアーカイブが広がっていく姿を是非協力して皆様方と作っていきたい。
今後も繋がっていきましょう。よろしくお願いいたします。
田山)ありがとうございました。
デジタルアーカイブに答えはないと思います。今日は多くのヒントをいただき、ありがとうございました。明日からの仕事に生かせていただけたらと思います。