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第20回図書館総合展 フォーラム
デジタルアーカイブが日本の図書館を変える!
―フロントランナーに学ぶ、手が届くデジタルアーカイブ ―

日時:平成30年10月30日(水)15:30~17:00
場所:パシフィコ横浜アネックスホール 第2会場
主催:株式会社図書館流通センター、TRC-ADEAC株式会社

モデレーター:井上透(岐阜女子大学 デジタルアーカイブ研究所 所長・教授)
   発表者:柴山和香子(千葉県 船橋市教育委員会 船橋市西図書館館長補佐)
      :武田剛朗(千葉県 大網白里市教育委員会生涯学習課 主任主事)
    司会:田山健二(TRC-ADEAC株式会社 代表取締役社長)
下記記録のPDFファイルはこちら(PDFファイル)をご覧ください。


フォーラム概要(田山)

報告1 デジタルアーカイブが日本の図書館を変える!
 ―フロントランナーに学ぶ、手が届くデジタルアーカイブ ―
  報告者:岐阜女子大学 デジタルアーカイブ研究所所長・教授 井上透

1. 知識基盤社会のベースはデジタルアーカイブ。
    1. 知識基盤社会のベースはデジタルアーカイブ。
    ・今や、図書館や博物館だけでなく、大学・自治体・企業等色々な組織でデジタルアーカイブに取り組んでいる。
    ・EUのEuropeanaやアメリカのDPLA などが膨大なコンテンツを提供し、大きな影響を与えている。著作権法の改正やTPP法案等、デジタル化に向けた全世界的な動きの中で、図書館や博物館のあり方も変わりつつある。

    ・数例のデジタルアーカイブの紹介
    国立公文書館デジタルアーカイブ →過去の記録が活きたデータとして活用される例
    文化遺産オンライン →できた当時海外からも注目された
    国立科学博物館デジタル学習コンテンツ →悉皆データだけではなくコンテンツ化したデータの提供もありうるという例
    青空文庫 →もはや説明は不要でしょう。
    マンガ図書館Z →新しい資料が続々提供されるというこれまでにない流れ
     数年前にはマンガ界の代表は著作権期間延長に賛成していたが、今やコンテンツを出しても短期間でメインの時期は過ぎてしまう
     →「公開して自分のファンを作った方がいい」という考え方に変わりつつある
    Google Books, Google Arts & Culture →膨大なデータを著作権フリーで提供
    Europeana →ヨーロッパ全域の資料を統合。ほとんどの資料がCC0(ゼロ)で自由利用可能。これだけでキュレーションができる。
     注目点:2014年から日本語で検索可能(ゲティ財団の公開した典拠辞典による)
     →アーキビストの間では非常に大きなインパクトがあった。
    GBIF →生物多様性についての1億2000万件のデータを提供。
     活用例:マラリアを媒介するハマダラカの分布を示して感染症対策を行う
     →これまでデジタルアーカイブの情報は美術作品の類が主だと思われていたが、データそのものが提供されるようになってきた。
    活断層データベース →膨大なデータを蓄積。歴史とデータがつながっていく例 (伏見大地震を例に)
2. 強烈な少子高齢化が進展
    ・ 安倍首相の施政方針演説でも最初に取り上げられている。
     日本創成会議 平成25年3月レポートにおける消滅市町村数の衝撃
    ・ 内閣府・総務省がコンパクトシティー化を推進
     自治体の対応として、文教施設である小中学校統合・中高統合、図書館・公民館・博物館等社会教育施設の機能統合の動きが強まっている。その中で図書館・博物館の生涯学習機能が強く求められている。
     → 地方創生・コンパクトシティー等、生産性向上の圧力から逃げることはできない。
3.地方創生による生産性向上のベース ―地域の特質を知り、活用すること―
    ・ 図書館・博物館の果たす役割
     図書館に保存された地域の歴史・文化を整理し、活用することが必要。それだけでなく過去の写真、歴史的証言を整理していくことが重要視されている。
    ・ 図書館・博物館はアーカイブ
     「図書館・博物館は情報産業」(梅棹忠夫 国立民族学博物館初代館長)
     広く情報を収集して、集積された情報を引き出すナレッジマネジメントの場として図書館・博物館をどうやって役立てていくかという点が重要。
    ・ 図書館のデジタルアーカイブに関する役割についての根拠
     「図書館の設置及び運営上の望ましい基準(平成24年12月19日文部科学省告示第172号)」の中で、「郷土資料及び地方行政資料の電子化に努めるものとする」ということが明確に謳われている。
4. 図書館と博物館のボーダレス化
    ・ 武蔵野美術大学美術館・博物館: 「知の複合施設」として一体化している
    ・ 瑞穂町図書館と郷土資料: 「温故知新-瑞穂町を旅する地域資料」として図書館・郷土資料館が一体的に事業を展開している
    ・ 太田市の美術館・図書館: 「まちに創造性をもたらす、知と感性のプラットフォーム」としてオープン
     今回発表される大網白里市デジタル博物館・船橋市西図書館も含めて代表的な例として注目していただきたい
5. デジタルアーカイブはどのように役に立つか
    ・ 図書館資料の収集・管理・活用のベースとして活用できる。
    ・ 教育基本法改訂により学校教育で行われるようになった郷土学習・伝統文化教育の資料として、郷土資料が必要とされている。
    ・ 過去の自然災害資料を防災の教材として活用できる。
    ・ オープンデータ化により、企業活動に利用可能なデータを提供できる。
    ・ 認知症対策の「回想法」の教材として、過去の写真・資料を使える。(NHK回想法ライブラリー)
    ・ 地域を知ることでアイデンティティー・郷土愛が醸成される。
    ・ 地域産業振興のヒントを市民に提供できる。
    ・ 2020年に向けてインバウンド対策として用いることができる。
6. アーカイブの語源
    ・ 語源は、古代ギリシャの上級政務執行官アルコンの家・アルケイオン(arkhei?on)。 情報の集中する場所、知の集積された場所としての概念の拡大。
7. デジタルアーカイブの概略
    ・ 公的な図書館,博物館,文書館の収蔵資料だけでなく,自治体・企業の文書・設計図・映像資料などを含め、有形・無形の文化資産をデジタル化により保存し、継続的に提供し、意思決定や創造的活動に活用するシステム。
    ・ デジタルアーキビストはそれを促進する人材である。
8.デジタルアーカイブ立国への動向
    ・ 内閣府知的財産戦略本部を中心に行われる関係省庁等連絡会で、デジタルアーカイブをどのように公開していくかについて協議されている。
    ・ それに関係する計画の中にデジタルアーカイブに関する直接的な言及がある 「「我が国の知」を集約することを可能とするものであり、学術研究・教育・防災・ビジネスへの利活用が期待できる」 「海外発信機能を付加・強化することにより、インバウンドの促進や海外における日本研究の活性化にもつながりうる」 (『知的財産推進計画2017(平成29年5月)』)
    ・ 2020年に向けて日本のデジタルアーカイブが国内外に通用するよう政策的に推進していくということも謳われている
    ・ それ以外の場でも、「骨太の改革」方針の中に各分野のデジタルアーカイブ化・分野横断型統合ポータル構築の推進等が盛り込まれるようになってきている
    (「経済財政運営と改革の基本方針2018~少子高齢化の克服による持続的な成長経路の実現~(H30年6月15日閣議決定)」)
    (「未来投資戦略2018 ?「Society5.0」「データ駆動型社会」への変革- (平成 30 年6月 15 日)」)
9. 現在の動き
    ・デジタルアーカイブ研究機関連絡会 2016年6月
    ・デジタルアーカイブ推進コンソーシアム 2017年4月設立(業界団体による応援団、政府への働き掛けも行う)
    ・デジタルアーカイブ学会 2017年5月設立(順調に人材を育成している)
    ・アーカイブサミット 2017年9月9,10日(国会のデジタルアーカイブ議員連盟や自治体と連携)(今年は2018年12月17日)
    ・産学官フォーラム 2017年11月14日内閣府知的財産戦略本部
    ・デジタルアーカイブジャパン実務者検討委員会、「第一次中間取りまとめ」を公表 2018年4月内閣府知的財産戦略本部
    ・デジタルアーカイブ整備推進法(仮称・議員立法)が2018年成立か?
(まとめ)
    デジタルアーカイブの基盤をより確かなものにしていくこと、そして、実際にデジタルアーカイブ化する際の予算を取りやすくすることが非常に重要視される時代に入ってきている。

報告2 ~図書館所蔵資料のデジタル化と船橋市デジタルミュージアム~
  報告者:千葉県 船橋市教育委員会 船橋市西図書館館長補佐 柴山和香子

【船橋市の概要】
    ・ 東京湾に面しており、東京にも比較的近い自治体。
    ・ 人口63万人程度。中核市では最大規模。
    ・ 市制施行は昭和12年。昨年度市制施行80周年の記念事業等をおこなった。
    ・ アンデルセン公園などが全国的に有名。
1. 西図書館
    ・ 東日本大震災の影響で建て替えを余儀なくされ、平成28年にリニューアルオープン。
    ・ 館内には郷土資料室やギャラリーを設置。数多くの貴重資料を収蔵・展示している。
2. 西図書館所蔵貴重資料
    ・ 種類は古文書・絵画(浮世絵、特に錦絵が中心)・古地図・書誌学資料・絵葉書・拓本など。総数は約7,500点。
    ・ 戦後まもない開館当時(昭和21年)、戦災を免れた船橋市には東京方面からの転入者が数多く発生し、「日本の上海」とも呼ばれ情勢が不安定になっていた。そうした状況で青少年教育を担うために船橋市図書館が社会教育施設として設置された。西図書館はその流れを継ぐ図書館。
    ・ 郷土資料の収集を始めたのは昭和25年。当時の館長の「どこにでもある普通の図書館にはなるな、土地の生の資料を備えた特徴のある図書館にしていこう」という方針から始まった。
3. 取り組んでいる事業
・ 船橋市図書館サービス推進計画
 方針:市民の読書機会を提供する施設として、その機能やサービス体制の充実を図る。また、地域の情報拠点として、市民の方の「読みたい・調べたい・学びたい」に応える図書館を目指す。
・ ≪船橋市図書館サービス推進計画で目指す姿を実現するための5つの目標≫
 郷土資料については「4.「ふなばし」の今と昔がわかる図書館を目指します。」という目標に沿って様々なサービスを展開してきた。
・ 報告者が郷土資料担当になったのは平成23年。東日本大震災後、館の建て替えでサービスが十分にできない状況で1年目が始まる。出版社やテレビ局への貴重資料の貸出・ギャラリーでの展示会等を行いながらも、「一般公衆の利用に供する」という図書館法2条の文言に応えられていないという思いがあった。
・ 2年目、緊急雇用促進事業の追加募集に応募して資料のデジタル化を行うことになった。
・ 平成24年にデジタル化を開始し、内部の理解を得る過程などで時間がかかったが、29年7月に公開にいたった。
・ 公開前に教育委員会の教育長や市長、広報課に話を通しに行くなど内部的な広報活動・根回しを積極的に行った。プレスリリースも行い、新聞にも掲載された。
・ 公開後、市役所本庁舎内のモニターなど市で使用している広告媒体でもPRを行ってきている。
4. 市民との連携
    ・ 船橋市西図書館の古文書を読む会
     西図書館では読書活動の一環として、所蔵する古文書類の翻刻を市民団体と協力して行っていた。この翻刻の成果を古文書の画像に重ね合わせて、原本と翻刻を比較できるような工夫をした。
    ・ 船橋の民話を聞く会
     市内で活動している団体所属の方に朗読をお願いして、「語りで味わう~絵本里見八犬伝~」という音声付コンテンツを作成した。
    ・ 船えもんをさがそう人気投票
     船橋市の公認マスコットキャラクター「目利き番頭 船えもん」をデジタルアーカイブの随所に登場させている。
     「単なるデータベースにしたくない」「敷居の低い部分・子供にも楽しんでもらえるコーナーを作りたい」という方向性もあって、所蔵する浮世絵資料の中に船えもんを忍ばせて利用者に探してもらう試みを行っている。当初は3点しか該当資料がなかったが、リニューアルオープン1周年記念事業の中で、どの浮世絵の中に隠すかGoogle Formを用いて人気投票を実施した。その結果が現在公開しているアーカイブに反映されている。
5. これからの課題
・ 「公開して終わり」ではない
 行政の自己満足で終わらせるのではなく、「市民が使える」郷土文化デジタルアーカイブを目指すべき。
 現状は、最初の一歩ということで、トップページには利用者の興味をひくようなコンテンツを使用しているが、今後は作成者のコンセプトが伝わるよう以下の事項に留意した画面を作っていきたい。 
  ①郷土の文化を伝えるプラットフォームにする。
  ②市民や関係各所と連携し、資料の収集を行う。
  ③子供から高齢者まで利用できるサイト作りを。
・ ふるさとの歴史と文化を伝える役目を担っていくのが私たちの役目
 「ありとあらゆる分野の情報をそろえ、無料で使えて、特に目的がなくても気軽に立ち寄れる」という図書館の強みを活かして、多くの人に使っていただけるデジタルミュージアムを作っていかなければいけない。
6. 船橋市西図書館が思うこと
・ 地域資料はその地域でしか入手できない
 地域資料の収集には地域の人とのかかわりが大切。デジタル化といっても結局は人と人とのつながり。
・ 図書館は資料を活かすのが使命、資料の価値を作るのは利用者の皆さん。

報告3 大網白里市デジタル博物館について ―館を持たない自治体が提案する本格デジタル博物館―
  報告者:千葉県大網白里市教育委員会生涯学習課 主任主事 武田剛朗

【大網白里市の概要】
    ・ 人口:約5万人
    ・ 平成25年1月1日に単独で市制施行(千葉県で最も新しい市)
    ・ 市内の駅:JR外房線 大網駅・永田駅
    ・ 地形:東西に広く、西は丘陵部、中央に田園地帯、東は九十九里浜
    ・ 主な観光資源:白里海岸 ※7・8月は白里海水浴場
    ・ 主なイベント:「浜まつり」「産業文化祭」「文化フェスタin本國寺」
    ・ マスコットキャラクター:マリン(人魚)
    ・ 主な施設:大網白里アリーナ
    ・ 図書施設:図書室
    ・ 博物館・資料館・美術館:なし
1. 大網白里市デジタル博物館について
    ・ 弱みは?
     ・展示施設がなく文化振興が全く進まない
     ・予算も人員もつかない
     ・文化振興の側面では千葉県内で一番遅れている方ではないか
    ・本当に「何もない」のか?
     〇江戸時代にイワシ文化で経済的に繁栄、絵師や文人墨客を浜に招いて絵や絵馬などの美術品が数多く作られた。
     〇高度経済成長期には新興住宅建設に際して考古資料がたくさん出てきた。
     →資料はあるが見せる場所がない
    ・ 弱みから強みへ
     資料公開の場としてデジタル博物館を作ろうという発想
     ・デジタルでしかできないことをやろうという方向性。
     ・文化振興の遅れている自治体がやれば注目を集めるのではないかという逆転の発想。
     ・遅れている文化振興を解決し、波及効果として学校教育や平和教育、経済的効果も生み出し財源の確保にもつながるのではないか(ふるさと納税など)。
    ・「本格的デジタル博物館」として
     実際にコンテンツを作るにあたり、デジタルアーカイブをいくつかの機能で分けている。
     1通史的に閲覧できる部分を設けて博物館の役割をもたせる。
     2「大網白里の巨匠たち」コーナーで美術館の役割をもたせる。
     3トップページ下部には市を紹介する機能を集約しアーカイブ的な役割を持たせる

2. 大網白里市デジタル博物館構築までの経緯
    平成27年以前
      総合計画の中に「大網白里市デジタル博物館」という表記あり
      市公式ホームページで指定文化財の紹介ページがあるのみ
    平成28年
     2月デジタル博物館の企画立案の開始(シティプロモーションの施策の一環として)
     3月図書館振興財団の提案型助成事業への応募を検討開始
      (全国のデジタルミュージアムを比較)
     5月「館を持たない自治体が提案する本格的デジタル博物館」をコンセプトとする
     7月提案型助成事業へ応募(9月に助成決定)
     12月補正予算成立

    平成29年
     2月採用するシステム、委託業者が決定。(プロポーザル方式)
3. 第1次公開までのスケジュール
    平成29年
     2月業者と契約
     3月考古資料の選定、撮影①
     4月町史・文化財マップのデータ化開始
       全体像(階層)を決める
       美術資料、歴史資料の選定
       目録データの作成
     7月文化財審議会で全体像を発表(意見を抽出)
     8月地図資料のデータ化開始
     9月考古資料の撮影②、民俗資料・美術資料の撮影
       説明文等の作成開始
     11月広報周知活動の本格化

    平成30年
     1月画面のレイアウト等の確認、修正
     2月第1次公開
4. 第1次公開後の反響
・ アクセス件数
 公開当初の件数:平成30年2月 28,026件

 最大件数   :平成30年4月 44,935件
     ※ADEACがNDLサーチとの連携開始、市内各種団体へチラシ配布
 直近の件数  :平成30年9月 21,330件
     ※紹介動画の作成、ツイッターで周知等の工夫
 平均件数   :約25,000件
・ 相乗効果
 「市制5周年記念」特別企画展と連携して「大網山田台遺跡群から見る古代の大網白里」にデジタル博物館の体験コーナーを設置。
 →前回の企画展と比較して1.5倍の来客があった。
 「ナイトミュージアム」を開催して資料の紹介のプレゼンテーションを行った。
・ 波及効果
 ・市内及び近隣団体への波及効果
  出前講座の依頼(市民から) 2回
 ・他県への波及効果
  他の市町村からの視察 3回
 ・学校教育との連携
  小学校への出前授業 1回
  教職員向けの会議・研修等 3回
 ・シティプロモーションにおける効果(市の教育委員会という枠を超えて影響があった)
  新聞への掲載回数 4回
  地元FMラジオでの取り上げ回数 3回
  観光プロモーション等での活用回数 1回 
担当者の知らないところでデジタル博物館の話題が拡散されるということもあった。
5. 実際の資料
通常の博物館ではできない、デジタルならではの見せ方を意識している

例:
・ 縄文土器の3D映像: 回転させながら全方位を閲覧できる。拡大縮小もできる
・ 板絵馬の画像: 通常は見ることのできない裏側も閲覧できる
6. 今後に向けて
・ 平成30年度の見通し
 動画コンテンツや美術品の追加、各資料への解説の追加を計画している
 平成31年3月には公開発表会を予定している。

・ 現状の課題と今後の展望
 〇トップページと階層をより分かりやすくする
 〇市内外から広く意見を聞き、より親しみやすくわかりやすいコンテンツを作成する
 〇財源・人員の確保
 〇定期的なコンテンツの追加

パネルディスカッション

    はじめに
    井上)プロフィールを見ると発表者の2人とも、図書館だけでなく多様な経験をされている。そうした多様性を持つ人材がいるというのは非常に強い。アクティブに動くのはそういう人材。

    質問1. 井上先生から船橋西図書館 柴山さんへ
    井上)これまでアーカイブは「作って公開したら終わり」というところがあった。船橋西図書館のアーカイブは一つ抜けている。「利用者がアクティブに使えるように」作られている。どういう発想でこのようなアーカイブにいたったのか?
    柴山)自分だったらどう使ってみたいかだと思う。先ほども少し触れたが単なるデータベースにはしたくなく、市民の方にどうやって楽しんでいただけるかを考えた。目的のある人は単なるデータベースでも自発的にご覧になるが、一般の図書と同じ感覚で考えると、まず興味をもっていただくことを念頭に置くべきだと考えた。
     職員と話し合った結果、ちょうど市制施行80周年ということもあり当時の新聞の号外がいい資料になるという話になった。(注:「船橋市西図書館/船橋市デジタルミュージアム」のトップページに使われているアニメーションの元になった画像のこと。白黒の鳥観図に着色・アニメーションを追加し、船橋の一日と四季の巡りを味わえるようにした)
     いい資料があることを市民に知らせたいという思い。せっかくだから船橋のいいところをもっと味わっていただきたい。という感覚を大事にした。
    井上)そこが要点だと思う。自分自身が科学博物館でコンテンツを作ったとき、内部の職員や研究者は「これを作ろう」と積極的に作成に取り組んだのはいいが、アクセスが少なかった。作った後で「どうやって使っていくか」というのがデジタルアーカイブの一番の要点になると思う。

    質問2. 井上先生から大網白里市 武田さんへ
    井上)大網白里はスケジュールを見るとわかるように、非常に短期間でデジタルアーカイブを完成させている。その要因・きっかけはどんなところにあるのか?
    武田)最終的に大網白里市のPRになればいいと思ってやっているところがある。博物館がないため、初めから大網白里市の教育委員会生涯学習課として動いたので、財政的・人事的な面を所管する部署の方々にも先に説明して話を進めた。「このコンセプトでやっていけば大網白里市の知名度を市内外にも広められる」というところから始めたのが一つの要因になっていると思う。
    井上)内部のコンセンサスという一番大事な部分をきっちり抑えられていたのが勝因か。短期間にデジタルアーカイブを完成させるというのはなかなかうまくいかないものだが、「まちの活性化」という効果とそれに寄与する図書館・資料という立ち位置、地域創生につながるような発想をしっかり説明できるのが重要ではないかと思う。
     船橋西図書館のケースでも、アーカイブの中に子供たちにも受けるような「目利き番頭 船えもん」が出てきて、子供たちの理解を得る中でどんどん地域に浸透している。どちらのケースでも、地域住民への浸透性というのをアーカイブとして考えていらっしゃるのだろう。

    質問3. フロアから井上先生へ
    質問者)広告代理店の企業図書館に勤めています。インバウンドが増加して文化・伝統への注目が高まる中でのデジタルアーカイブの統合ポータルの件など興味深く拝聴していたが、企業活動との距離を感じているところがある。広告コミュニケーション活動やブランディングなどにデジタルアーカイブのコンテンツがどのように活用できるか知りたい。
     また、広告代理店であればクリエイターやプランナーがいるが、彼らに向いたコンテンツやその使いこなし方、あるいは勉強のやり方などがあればご教示いただきたい。
    井上)フォーラム資料の中にデジタルアーキビストの講習会の資料がある。最新のものではTRC-ADEACと共同で開催しているもので52名の参加があった。以前はほとんどの参加者が図書館や博物館の方だったが、今では3分の2が企業の方。企業の中でもアーカイブ化することの重要性が理解されてきたようで、その使い方も非常に広まってきている。例えば、企業内広報用資料等をデジタル化してどこでも使えるよう共有する仕組み・発想は企業内の生産性向上に非常に役に立つ。自治体内でも、デジタルアーカイブがまちの活性化に役立つものという視点が大事になっている。そうした視点を持たない限り、また、実際に役立つものでない限り、アーカイブの未来はないのではないか。

    質問4. フロアから船橋西図書館 柴山さんへ
    質問者)特許庁図書館に所属しています。貴重資料をデジタル化したということだが、デジタル化した後の貴重資料の原本はどのように保存しているか?
    柴山)デジタル化した後の資料は二次資料と考えている。何よりも原本が大切なので、大切にそのまま保管している。デジタル化資料も今後どれだけの期間保つのかまだ検証の途中という話もある。現物資料を後世まで伝えていくのが私たち図書館の務めではないかと考えている。
    質問者)具体的な保管方法はどうしているのか?
    柴山)温度・湿度管理ができる収蔵庫を作ってその中で保存している。また、中性紙保存用の箱を用意してその中に資料を保管している。釘などの建物に使っている材料にも気を使っていて、外気から遮断するために空調に30cmの保護層を確保するなど設計の面からも配慮してもらった
    井上)デジタル的な資料の保管についても今考えなければいけない。百年保つデータでもそもそも活用ができる保存が可能なのかという問題がある。今やデジタル資料も博物館資料であるという法律的な位置づけがあるので、こうした資料についてもきちっとした保管が必要になってきている。

    最後に
    井上)お二人からかなりいろいろなことを示していただいたが、今後デジタルアーカイブの実現を目指される皆さんにどのような点が必要になってくるかアドバイスを頂きたい。
    武田)大網白里市もまだ始めたばかりで、博物館がないところから事業をスタートして一年未満という状況。「館を持たない自治体が提案する」と謳っているが、「館をもたない」というのは「今後も持たない」ということではない。最終的には博物館・資料館を作りたいという思いがある。デジタル化すると「もう館を作る必要がないのではないか」という意見があるが、何も行動を起こさないと話が前に進まないので、起爆剤・初めの一歩としてデジタル博物館を始めた。皆さんの場合も、できるところから積み上げていくことが大切なのではないかと思う。
    柴山)船橋市にも美術館がなく、船橋市デジタルミュージアムで文化課と連携してその所管する美術品を公開している。大網白里市と同じように、「館はないけれどまずは公開してみよう、そしてその後の仕事につなげよう」という思いがある。船橋市デジタルミュージアム全体も、発端は西図書館だが、自分たち以外にも同じようなものを持つ部署との連携でここまで来た。そうした部署同士でコミュニケーションをとって知恵を絞ると次の一歩が見えてきたり、お互いの気持ちを共有することができる。また、話すことによって先が見えてくるということもあると日頃思っている。
    井上)お二人の話から伺えるのは、同じ組織内の他局間でいかにコミュニケーションをとっていくかが完成に結びついていくということだと思う。非常に重要な示唆を頂いた。
     私たちがもう一つ考えていかなければいけないのは、将来に向けた標準化である。メタデータの統一や国際的な画像の取り決め(例:IIIF)への準拠といった基本的なことを裏で地道にやっている人々がいて、こうした仕組みが出来上がっているということを忘れてはいけないと思う。
     自信をもって地域史料を公開していくというのが地域の図書館に求められていることではないか。本を受け入れ・提供していくという仕事に加え、地域の資料を受け入れ公開していくということに取り組んでいっていただきたい。その基盤としてデジタルアーカイブ化は非常に取り組みやすい。WEBを使って地域のポジショニングを高めていくという効果も非常に出てきている。アクセスの多さというのが行政的な説明資料としても非常に有用。そういった将来性をも見込んで、ぜひそれぞれの図書館・自治体でデジタルアーカイブ化に取り組んでいっていただきたい。

    田山)ありがとうございました。
     どうぞみなさんも「手の届くデジタルアーカイブ」の発表をご参考に、デジタルアーカイブに手を届かせていってください。そしてデジタルアーカイブで図書館を変えていっていただけたらと思います。